旧堀田邸
様々な変異種が報告されている新型コロナウイルスにも国民はすっかり慣れてしまった観がある。
緊急事態宣言の出ている都市から、ワンランク下位のように扱われているまん延防止等重点措置に留まっている都市へと、人は流れているようだ。
川崎、横浜駅周辺の混雑、江の島・湘南、房総半島周辺観光地への人出が多いという報道を見るたびに、感染者数の減少は夢だと思わずにはいられない。
東京五輪は開かれるのか。
楽しみではあるが、開催後の日本の姿を想像すると空恐ろしく感じる。
医療崩壊は既に始まっているのだから、政府の英断を期待したい。
県を跨がず、気軽に、感染リスクの少ない名所はないかと探してみた。
BSTVで放送されている「百年名家」を思い出し、近場の古民家を訪れることにした。
これまでの古民家観光から来場者は少ないことはわかっており、この日も40人以上の入館はできない旨がネットの情報に出ていたので、感染の危険はないものと判断した。
案の定、すれ違った他の来館者は数名であり、ゆっくりと歴史建築と名庭園を堪能することができた。
千葉県佐倉市にある国指定重要文化財 旧堀田家住宅は、最後の佐倉藩主であった堀田正倫(ほったまさとも)が明治23年に完成させた伝統的な和風建築5棟で構成された大名家の邸宅である。
当時の所有敷地面積は3万坪にもなり、現存する屋敷は庭園と合わせて800坪で、威風堂々たる建物である。
部屋の造りにも工夫が凝らされており、襖には、著名な画家(女流画家 跡見花蹊=跡見学園創始者)による梅の絵が描かれ、七宝焼の引き手、障子格子全てに面取りが施され、地袋の唐紙には印度更紗が張られている場所もある。
【跡見花蹊画】
【七宝焼の引手と印度更紗】
また、襖にも趣向が凝らされている。
子供部屋には子の健康を願い成長の早い麻の葉模様が配され、光の加減によって美しい金模様が浮かぶ「きら(雲母)刷り」など一部にきらびやかな意匠もある。
全体的には、旧士族特有の一見質素な趣だが、資材に鉄刀木(たがやさん)や紫檀など高級な木材を使用し、13mもある一本の太い梁を配すなど美しさと贅が随所に見られた。
【気分は藩主】
【菱形欄間と雲母刷りの襖絵柄は松咥え鶴】
正倫の先祖は、戦国時代から続く堀田家の子孫で、徳川家に仕えてからは佐倉藩を率いてきた。
正倫は廃藩置県後、東京に移住したが華族の地方移住が認可されると旧領地佐倉に戻り、国の基となる農業、教育の振興に尽くした。
明治30年には敷地内に農業試験場を作り、今でもこの試験場は千葉県を代表する農業研究機関として有名である。
旧制佐倉中学(現県立佐倉高校=長嶋茂雄元読売ジャイアンツ選手出身校)の維持発展にも寄与したとされている。
窮屈な生活を強いられているゴールデンウィークだが、感染症が収束し、自由に旅行できる日が待ち遠しい。