はだしのゲン
報道番組で懐かしい「はだしのゲン」のニュースが取り上げられていた。
漫画「はだしのゲン」は1970年代前半に発表された、広島で被爆した少年が、困難に立ち向かいながら力強く生きていく物語である。
私は小学校5年生の頃、この漫画が連載されていた週刊少年ジャンプを貪るように読んでいた。
当時は、「アストロ球団」「マジンガーZ」「包丁人味平」「トイレット博士」「ど根性ガエル」等々、ギャグ系、スポーツ根性系、SF系、ファンタジー系等の作品が連載されていた。
そんな中で「はだしのゲン」は、子供心に怖いと感じさせる異色の作品であった。
被爆体験者である作者が描く内容は、原爆の恐ろしさ、戦争の悲惨さ、人間の愚かさを語り掛ける内容である。
原爆投下直後の爆心地広島市内の光景は、地獄そのものだった。
主人公のゲンは知り合いと話をしていたが爆発直前、偶然建物の陰に入り直撃を逃れた。
しかし、今まで話していた相手は影も形もなくなってしまった。
自宅に帰る途中に出会う人は、死体となっていたり、皮膚がただれていたり、ガラスが刺さったりと、それはそれは悲惨な姿であった。
自宅に帰ると家屋は倒壊し、父、姉、弟が瓦礫の下敷きとなり助けを求めていた。
周りから迫りくる火の勢いを見た父は、ゲンに母を連れて逃げるよう諭す。阪神淡路大震災でも、神戸市内で同じような惨劇があったと聞く。
ゲンは戦後の焼け野原で生きていくために、仕方なく盗みをしなくてはならないこともあった。
差別を見たり、聞いたり、時には自身も被爆者という差別を受けながらもたくましく前を向いて成長していく。
戦争の記憶が薄らいでいる現代にとっては、貴重な作品だと思う。
しかし、広島市の小学生向け平和教育の教材から「はだしのゲン」を別のものと差し替えると報道された。
理由は現在の子供の生活実態に合わない、誤解を与える恐れがある、漫画の一部分だけでは被爆の実態が伝わり難いということである。
問題視されている場面は、
①貧しさから家族を守るために路上で浪曲を披露して小銭を稼ぐ。
②病気がちな母親の為に、鯉の生き血を飲むと精がつくと聞き、金持ちの庭に忍び込んで鯉を盗もうとする。
③瓦礫の下敷きとなった父親が逃げるように諭す。というシーンである。
作品全体を読んでいなければ伝わり辛いかも知れないが、このような場面こそ戦争を起こしてはならいという警鐘になると思う。
この内容を子供に伝えるには時間がかかり過ぎるという意見もあったという。
確かに残酷で過剰な描写もあるようだが、戦争の悲惨さを伝えるこのような教育こそじっくりと時間をかけて教えるべきではないかと私は考える。
ロシアのウクライナ侵攻から1年が過ぎた。
毎日の悲惨な報道に胸が締め付けられる。
そこに防衛費の増強が報道されている。
軍拡に軍拡で対抗すれば、そこに何が待っているのか。
歴史に学んでこそ平和な未来を創造していけるものだと信じている。