「わ鐡」の旅
7月、猛暑の続く群馬県を訪れた。
国内でも気温の高いことで有名な県であり、国内最高気温の記録を持つ埼玉県熊谷市に近い場所である。
この日の気温は39℃であった。
旅の目的は「わたらせ渓谷鐡道」、通称「わ鐡」に乗る事である。
宿泊先の東武線太田駅からわ鐡の途中駅である相老駅で始発に乗車した。
わ鐡は始発駅の「桐生駅」から終点の栃木県日光市にある「間藤(まとう)駅」までの総延長44.1kmを結ぶ路線である。
わ鐡の歴史は、109年前の1914年(大正3年)に遡る。
国内の銅生産量の40%を占めていたといわれる足尾銅山から産出される銅鉱石の輸送路として発展し、開業4年後には国有化された。
その後、銅資源の枯渇と共に1973年に閉山すると国鉄民営化でJR足尾線となったが、赤字路線となり1989年には廃線となった。
その時に引き継がれたのが第3セクターの「わたらせ渓谷鐡道」である。
今も苦しい経営が続いている中、観光客を誘致しようと「料理列車」「廃線を歩くツアー」や御朱印帳ならぬ鐡印帳、沿線の温泉地や神社・仏閣の紹介などで賑わいを取り戻そうと努力している。
最初に向かった先は「大間々駅」。
わ鐡の本社があり、トロッコ電車、ゾンビ列車などイベント車両が並んでいる。
10分ほど歩くと途中に天狗様を祀った「はね瀧道了尊」を見ながら渡良瀬川中流の「関東の耶馬渓」とも讃えられる見事な景色の「撥瀧(はねたき)橋」に着く。
橋の上流側に「高津戸ダム」を間近に見ることもでき、自然と人工物の対比をまざまざと感じた。
遊歩道を通り「高津戸橋」まで戻り、次の電車を待つことにする。
運行本数が限られているため、一本逃すと長い待ち時間となるので時刻表チェックは欠かせない。
「上神梅(かみかんばい)駅」は、わ鐡で初めて登録有形文化財に登録された駅舎及びプラットフォームを有し、短い停車時間に車窓から眺めることができた。
「神戸(ごうど)駅」には、旧東武特急車両「けごん」の客車を利用した「列車レストラン清流」が営業している。
美しい山並みと渡良瀬川の渓流を車窓から眺めていると約30分で旧足尾銅山採掘場跡を通過して「通洞駅」に到着する。
登録有形文化財の駅舎を見ながら、歩いて「足尾銅山観光」に到着する。
旧坑道を利用した約500mの薄暗いトンネルをトロッコ列車で登っていき、江戸時代から昭和の時代に閉山するまでの採掘の現場作業模型が展示されている。
危険と隣り合わせの狭い坑道内での辛く厳しい採掘作業を偲ぶことができる。
坑道内は15℃で空気はひんやりとしており、半袖では寒いほどで下界の猛暑が嘘のようだ。
他にも、鉱石から銅になるまでの過程や銅貨の鋳造過程、歴史が学べる資料の展示が並んでいる。
日本の公害問題の原点と言われている「足尾銅山鉱毒事件」については触れられておらず、あれだけの出来事が忘れ去られていくのに一抹の寂しさと不安を感じた。
隣駅の「足尾駅」には足尾銅山を経営していた古河鉱業(現古河機械金属)が貴賓客や要人を接待、宿泊させるために造られた「古河掛水倶楽部」が登録有形文化財として残されている。
館内には国内最古のビリヤード台のある撞球場や贅を尽くした施設を見ることができる。
後の横浜ゴム、富士電機、富士通など古河の系譜を持つ大企業は多い。
この夏のわ鐡沿線の観光地旅はここまでにした。
他にも、水沼駅の駅構内温泉センター、大間々駅から徒歩1時間で床紅葉を見ることができる宝徳寺、本宿駅に近い、歴史あるにごり湯で有名な「梨木温泉」など、また訪れてみたいと思う。