憂鬱な季節
陽気の良くなるこの季節は、気持ちも穏やかになり少し冷たい風さえ心地よく感じるのだが、毎年のことながら鬱陶しいことがある。
天気のニュースになり始めたのはいつの頃からだろう。
「スギ花粉情報」である。
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、喉のいがらっぽさ、頭痛...今では国民病とも言われ、全国では4人に1人、東京都では2人に1人に症状があると言う。
私もそのうちの一人。
それも大ベテランと自負できると思う。
話は、1970年の小学校3年生にまでさかのぼる。
その日朝から目の周りがボーっとし、瞼が腫れているように感じていた。
夕方、帰宅して炬燵に入っていると、とめどなく流れる鼻水、連発するくしゃみ、擦らずにいられない目のかゆみ。
風邪ひいたかな...しかし、その症状は続いた。
家族からは「お前はよく風邪をひくな」と叱られ気味の視線を受けていたのをよく覚えている。
いつの間にか症状も出なくなるのだが、その翌春、再発するのである。
目のかゆみは瞼の周りが炎症を起こすほど赤くなっていた。
そのかゆみから逃れようと湯舟に顔を浸し温めれば何とかなるのではと、今となっては逆効果なのだが子供の浅はかな考えを実行した。
良くなるはずもなく、悪化する症状に流石に気の強い母親も心配し、薬局に相談に行った。
そこで初めて、花粉によるアレルギー反応があることを知らされた。
そこで処方された目薬が「美瞳(びどう)」。
今では製薬会社から様々な目薬が発売されているが、この薬は今はない。
子供心に救世主に思えた「美瞳」が懐かしい。
その後、鼻炎薬も処方され、お世話になったのは「ベンザ鼻炎用カプセル」。
これは効き目が強く、鼻孔が乾きすぎて鼻血が出るほど。
眠気が出るのには苦労した。
その後、社会人になり耳鼻科を受診すると、症状が軽減され程よい効き目の薬も安く手に入るようになった。
お医者様と親しくなると眼科に行かずとも目薬の処方もしてくれる。
そんなアレルギー体質と長年付き合って来たが、変化が訪れた。
スギ花粉が大量に発生したある年、耳鼻科を受診した際に「例年ほどのきつい症状は出ていない」と告げた。
すると「それは老化現象ですよ」と宣告されたのだ。
「なにーっ!ろっ、ろっ、老化かぁーい!」加齢によってアレルギー反応が弱くなり、これまで過剰に反応していたアレルゲンの活動が貧弱になったという。
老化という言葉にショックを受けたものの、これからアレルギー性の症状が薄くなるという喜びもあり、なんとも複雑な思いで病院を後にした。
考えてみると様々な老化が思い当たる。
目がかすむ、近くが見えない、膝、肘、肩が痛い、電車の座席を探す、エスカレーターの列に並ぶ、カバンの中身を減らし軽くする、白髪、抜け毛、スケジュールを覚えられない、人の話を途中で遮る、全く反応してもらえない親父ギャグを連発してしまう...誰もが通る道とはいえ寂しさがこみ上げてくる。
衰えを自覚し、もっと落ち着かないといけないと思う。
これから花粉症の季節が本格化しようとしている。
この病気は死に至るほどの病ではない為、研究は進まず対症療法ばかりに目が向くようだ。
早く根本的に治す治療法が確立して欲しいと思う。